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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
11 影人形
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,251 字 · 39 页
人形の関節、胴、首など、要所要所に糸がついていた、紋之助が、神に近い至芸で、上から糸を操る――正に天下一の竹久紋之助の人形だ。
「竹久紋之助といえる名人あり。人形活るがごとくに遣い、この太夫に、三味線はこよ女、いずれも古今に名誉の人、二人立揃いてつとめられし世に双絶の見物と、称誉せられしはこれなり。人形使い方のことは、その旧三議一統の書より起り、陰陽自然の事に帰す。深長に至りては、草紙のうえの沙汰に及ばずといえども、その大概を和歌につづりて、覚え易からしむること左の如し。
踏み出しは、男ひだりに女右、これ陰陽の差別なりけり
当惑は額を撫でて屈み目に、身をそむけるが定まりし法
驚きは、顔しりぞけて肩を出し、拳を宙に置くものぞかし
笑う時、男は肩を添る也、女は袖をあててうつむく。」
その他、これら人形の表現法と基本動作を歌にして示したのが五十三首あって、古来喧ましい竹久家の名人芸だった。
九
人形を見ていて藤吉は、そんなことを考えていたわけではない。この時、かれの頭脳はほかにあって、忙しく働いていたのである。
出方の藤吉の眼は、とっさのことではあり、それに、相方が、ぼんやりした影法師なので間違っているかもしれないが、とにかく、その、障子にうつった影は――傴僂だったという。