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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
13 宙に浮く屍骸
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,907 字 · 32 页
籠へ抛り込んでゆく葬式彦兵衛――何のことはない、さながら判じ物のような百鬼朝行が、本八丁堀三丁目、二丁目、一丁目とまっすぐに、松屋町宗印屋敷を左手に弾正橋を渡ると、本材木町八丁目、竹川岸から大根河岸までは、京橋を越えてほんの一足だ。炭町、具足町の家々の庇の朱いろの矢のように陽線が躍り染めて、冬の朝靄のなかに白く呼吸づく江戸の騒音が、聞こえ出していた。
藤吉は途中に組と並んで、ゆうべ白魚屋敷の大鍋こと鍋屋で行われた女将お美野殺しの一件を、聴いているのかいないのか、それでもときどき相槌を打ちながら、片裾を掴み上げて足早やに急いでいる。
五
小夜嵐?――しきりに雨戸が鳴る音で眼をさました初太郎はしばらく家の中でじっと耳を澄ました。たしかに風も出ているようで、戸を洩る空気の揺らぎで枕行燈の火が小忙しく明暗の色を投げる。皿の底の残りすくなの油を吸う音が、どうかすると虫のように聞こえて、初太郎は、時刻を忘れて妙にしんみり秋だなあと思ったりした。
小金井宿の穀屋の番頭初太郎は、その朝江戸へ出て来たばかりだった。卸し先に店じまいをする家があって、そのほうの掛け金の整理と二、三心当りのある新しい顧客を開拓するために、一月は滞在の予定だった。