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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

13 宙に浮く屍骸

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,907 字 · 32 页

青空文庫

のどかな江戸街上、今の鍋屋の陰惨な事件をそっくり忘れたかのように、釘抜藤吉は、のんびりとした表情だった。

「えらく企らんだものですね。」急ぎ足に追いつきながら、葬式彦が言った。「いずれ、たった一人の姉を殺らして、身代を乗っ取ろうてえくれえの女だから――。」

「うむ。」藤吉はもう興味もなさそうに、「なにさ、屍骸が自分で動くわけあねえからの。」

勘次が、感心した。

「なるほどね。」

「それが自分で競り上ったってえからにゃあ、屍骸は美野でねえはずだ。不審な事件ほど、手がけてみりゃあお茶の子さいさいよ。なあ彦。」

「大きにさようでげす。」

「おらあに組の話を聞いただけで、現場へ行き着く前から、まずこの辺と当りをつけていたんだ。それがお前、お美野さんの頸部を見りゃあ案の定、ありゃ細引きで縊れたもんじゃあねえ。もっと幅のある、こうっと、手拭いででも絞めたもんだ。手口は一眼でわからあな。常から反りの合わねえ姉妹だ。それにあの師匠は淫乱よのう。男に貢ぐ金に支えて、お美野さんへ毎度の無心と来る。拒ねつけられて害意を起すのは、ま、あの女ならありそうなこった。」

「するてえと、」勘弁勘次は、首を捻りひねり、「お美野さんが眠てるところへ飛び込んで、手拭いで締めて、首に細引きを結んで、その端を違い手へゆわえつけて――。