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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

06 巷説蒲鉾供養

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,319 字 · 29 页

青空文庫

「小舟町二丁目と瀬戸物町の曲りっ角で、へえ。」

「その頬っぺたは?」

「へ! すりゃあ、やっぱりこりゃ頬っぺた――。」

「はあて彦としたことが、一眼見りゃあわからあな、そりゃあお前、女子の左頬だ。髪の付根と言い死肌の色と言い、待ちな、耳朶の形と言い、こうっと、ま、三十にゃあ大分釣銭もこようって寸法かな――どこで押せえた、犬ころをよ?」

「へえ庄助屋敷の前で。」

「なに?」藤吉は乗り出した。「庄助屋敷の前?」

「へえ。」

「彦、あそこにゃあお前、お笑え草の高札が――。」

「へえ、その高札の下なんで。」

「彦。」藤吉の声は鋭かった。

「いつぞやお前が話した申上候一札の文言、あれに違えあるめえのう?」

彦兵衛は子供のように頷首いたが、ふと思い出したように早口に、

「その高札の一件ですが、四日前にも娘っこが二人、昨日も一人赤児がふっと消えて失くなったとのこと。」

「またか。」

と藤吉は眉根を寄せる。両腕を組んで考え込む。重おもしい沈黙があたりを罩めた。

「彦、お前、その頬っぺたを洗っちゃ来めえのう?」

藪から棒に藤吉が訊いた。

「洗った跡でもごぜえますかえ?」

「なにさ、ねえこともねえのさ――してどこから銜え出たもんだろうのう?」