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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

07 怪談抜地獄

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,998 字 · 32 页

青空文庫

言いながら手を突っ放したらしい。二、三度よろめいたのち、何とか捨科白を残して、迫り来る夕闇に女は素早く呑まれてしまった。

伝二郎と侍とが町の真中で面と向って立った。忍び返しを越えて洩れる二階の灯を肩から浴びた黒紋付きに白博多のその侍は、呼吸を切らしている伝二郎の眼に、この上なく凜々しく映じたのだった。五分月代の時代めいた頭が、浮彫のようにきりっとしていて、細身の大小を落し差しと来たところが、約束通りの浪人者であった。水を潜ったそのたびに色の褪せかけた、羽二重もなんとなくその人らしく、伝二郎の心には懐しみさえ沸き起るのだった。腕に覚えのありそうな六尺豊かの大柄な人だった。苦み走った浅黒い顔が、心なしか微笑んで、でも三角形に切れの長い眼はお鷹さまのように鋭く伝二郎を見下していた。気押され気味に伝二郎は咽喉が詰ってしまったのである。

「酒か――。」

侍は噛んで吐き出すようにこう言った。

「百薬の長も度を過ごしては禍の因じゃて――町人、これは其許の持物じゃろう。しかと検めて納められい。」

ぶっきらぼうに突き出した大きな掌には、伝二郎の紙入れが折りも返さずに載せられてあった。