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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

07 怪談抜地獄

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,998 字 · 32 页

青空文庫

昨日今日の見識りに、突っ込んだ身上話はしがない沙汰と、伝二郎の方で遠慮してはいたものの、前身その他の過去の段になると、玄内はあきらかに話題を外らしているようだった。なるほど独身者の侘び住いらしく、三間しかない狭い家の内部が、荒れ放題に荒れているのさえ、伝二郎には風流に床しく眺められた。

初めての推参に長居は失礼と、幽かに鳴り渡る浅草寺の鐘の音に、初めて驚いたように伝二郎はそこそこに暇を告げた。

玄内は別に留めもしなかったが、帰りを送って出た時、

「伝二郎殿、碁はお好きかな?」

と笑いながら訊ねた。

「ええ、もう、これのつぎに好きなんでございまして。」

居間の床の間に、擬いの応挙らしい一幅の前に、これだけは見事な碁盤と埋れ木細工の対の石入れがあったことを思い出しながら、伝二郎はなれなれしく飯をかっこむ真似をして見せた。

「御同様じゃ。」

と玄内は哄笑して、

「近いうちに一手御指南に預りたいものじゃ。こちらへ足が向いたらいつでも寄られい。男同士の交りに腰の物の有無なぞ、わっはっは、最初から要らぬ詮議じゃわい。」

伝二郎はまぶしそうに幾度もおじぎをしたなり、近日中の手合わせを約して、丁稚を中間にでも見立てた気か、肩で風を切って、引き取って行った。