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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
07 怪談抜地獄
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,998 字 · 32 页
ま、お預けとしとこうぜ。」
甚八は苦笑を洩らしながらあわてて言った。
「ところが、親分、藤吉の親分、こいつあ真正真銘の掘り出しなんですぜ。」
と彼は大袈裟な表情をして見せた。
「そうか――。」
と、それでもいくぶん怪しんでいるらしく、藤吉の口尻には薄笑いの皺が消えかかっていた。その機を外すまいとでもするように、藤吉の右頬へあまり切れそうもない剃刀を当てながら、親方甚八は、
「まあお聞きなせえ。」
と話の端緒を切り始める。眠るともなく藤吉は眼をつぶっていた。
孑孑の巣のようになっている戸外の天水桶が、障子の海老の髭あたりに、まぶしいほどの水映えを、来るべき初夏の暑さを予告するかのように青々と写しているのが心ゆたかに眺められた。
二
三月三十一日の常例の日には、ほうぼうの町内から多人数の繰り出しがあって、干潟で獲物の奪い合いも気がきくまいというところから、わざと遅れた四月の五日に、日本橋十軒店の人形店の若い連中が、書入時の、五月市の前祝いにと、仕入れ先のあちこちへも誘いをかけて、怪ぶまれる天候もものかはと、出入りの仕事師や箱を預けた粋な島田さえ少なからず加えてお台場沖へ押し出したのであった。