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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

08 無明の夜

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,547 字 · 27 页

青空文庫

彦の合羽の裾を銜えて、甚右衛門が先に立った。

しかし、いざ出て来てみると藤吉も内心ちょっと後悔した。思った以上の嵐である。それに、何を言うにも相手は犬のこと、当てが外れても文句の持って行きどころがない。と言って、今さら帰るわけにはなおさら往かない。釘抜藤吉、無理にも最初の見得を守り立てて、乾児を励ましてここまで来た木槌山。牛に引かれて善光寺詣り、ではない、犬にひかれて目明し奉公、果してそこに、しかも釘抜自身の繩張り内に、恐ろしい凶事が潜んでいたのである。

小谷間の、いささか風雨を避けた地点に、白髪頭を土に滅り込まして、草加屋伊兵衛の血だらけの屍骸が、仰向けに倒れていた。甚右衛門の飼主鋳かけ屋佐平次が弱気らしい顔を蒼くして怖さにわなわな顫えながら、それでも固く、甚右衛門が八丁堀を起して来ることを信じて、張番していてくれた。藤吉は乾児を従えて、雨に重い草を分けた。

「甚右が発見けて、甚右が親分を呼びに行ったのでございます。賞めてやって下せえまし。なあ、甚公――。」

傍の甚右衛門を顧みて、得意そうに佐平次が言った。藤吉は黙ったまま、彦兵衛の手から提灯を引ったくり、いつものとおり手紙でも読むように、眼を細くして足許の死人を覗き込んだ。