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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

08 無明の夜

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,547 字 · 27 页

青空文庫

」

「見てろ。宜しか。」

水差の水を染点へ垂らして、佐平次、手で揉んだ。落ちない。

「見やあがれ、血じゃあねえや。」

「ほう、何だ?」

「百合だ、百合の蕊だ。」

「なるほど、百合の蕊なら洗ってもおちめえ。が、その百合あどこでつけた?」

「爺つぁん、耄碌しっこなしにしようぜ。木槌山の柳の下に、五万何ぼも咲えてたじゃねえか。嫌だぜ、おい。」

「うん。そうか。だがの、百合あお前が来る前に、彦がそっくり河へ捨てたはずだ。そいつをお前、どうして知ってる?」

「――――」

眼配せ。勘が背へ廻る。彦兵衛は上框に立った。

「やい、何とか音え出せ。」

「――――」

佐平次の手が鉄瓶を探る。が、彦がとっくに下ろしてある。

「佐平次っ!」藤吉の拳、佐平次の鬢に飛んだ。「眼が覚めたか、どうだっ!」

「御用!」

一声、勘次はどっかと佐平次を組み敷いていた。

押入れを捜すと、さっき藤吉を襲った弓矢が出て来た。それが佐平次の口を開いた。

浅草奥山の揚弓場女に迷った末、佐平次が伊兵衛の高息の金に苦しんでいると、女に情夫のあることが知れた。探ってみると、それが賭場で顔見知りの御家新なので、一石二鳥と出かけて今夜草加屋殺しを演じ、犬を使って疑いの矢を恋仇敵へ向けようとしたのだった。