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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

10 宇治の茶箱

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,760 字 · 24 页

青空文庫

」

「なるほど。」

と藤吉は腕を拱いた。と、中庭の植込みを透かして見える置場の横を顎で指しながら、

「あの小屋へ左手の路地からもへえれますね。」

「大分垣が破れていますから、潜ろうと思えば――。」

という番頭の言葉をしまいまで待たず、

「旦那は盆栽がお好きのようだったから、それ、そこの庭にある鉢植にも、大方自身で水をおやりなすったことでしょう――が、それにしちゃ――。」と藤吉は小首を傾けながら縁端近くの沓脱石へ眼を落した。

「どこにも庭下駄が見えねえのはどういうわけでごぜえます?」

「おや!」

と喜兵衛は小さく叫んで庭中を見渡した。

「はははは。」と藤吉は笑った。

「庭下駄は置場にありやすよ。裏っ返しや横ちょになって、隅と隅とに飛んでいるのを、あっしゃあしかと白眼んで来やした。こう言ったらもうおわかりだろうが、今一つお訊きしてえことがある。ほかでもねえが、海に由緒のあるところから来ている者が、いってえ何人お店にいますね?」

「さあ――。」

と番頭はしばらく考えた後、

「まず一人はございますな。」

「喜兵衛さん。」

と改まって藤吉は声を潜ませた。

「お店から一人繩付きが出ますぜ。