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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
02 梅雨に咲く花
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,515 字 · 23 页
「提灯屋の手付きで固めてごぜえます。」
「よし。」と釘抜藤吉が立ち上った。五尺そこそこの身体に土佐犬のような剽悍さが溢れて、鳩尾の釘抜の刺青が袷の襟下から松葉のようにちらと見える。
「常さん、お聞きのとおり、この雨降りに引っ張り出しに来やがったよ。ま、勝負はお預けとしときやしょう――やい、奴」と軽く足許の勘次を蹴って、「一っ走りして長屋から傘を持ってこい。」
二
「酒がこうしてついそれなりに、雑魚寝の枕仮初の、おや好かねえ暁の鐘――。」
神田の伯母からふんだくった一枚看板と、この舞台についた出語りとで、勘次は先に立って三十間堀を拾って行った。
乾すつもりで拡げてある家並裏の蛇の目に、絹糸のような春小雨の煙るともなく注いでいるのを、眇の気味のある眼で見て通りながら、少し遅れて藤吉は途々彦兵衛の話に耳を傾けた。青蛙が一匹、そそくさと河岸の柳の根へ隠れる。奥平大膳殿屋敷の近くから、脇坂淡路守の土塀に沿うて、いつしか三人は芝口を源助町の本街道へ出ていた。
芝へ入って宇田川町、昨夜の八つ半ごろから降り続けた小雨も上りかけて、正午近い陽の目が千切れ雲の隙間を洩れる。