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つりしのしんきょう

釣り師の心境

坂口 安吾

「文学界 第三巻第六号」1949(昭和24)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,544 字 · 11 页

青空文庫

生れてはじめての潮干狩りであった。

羽田の飛行場は、焼けた飛行機の残骸や、吹きとばされて翼の折れた飛行機などが四散していた。

膝までの海を安心して歩いていると、いきなりバクダンの穴へ落ちて、クビまでつかり、ビショぬれになってしまった。それでも二十人ぐらい貝を拾っている人々がいた。海一面が貝のようなもので、いくらでも貝のとれる状態であったが、今はもう、そんなに貝はいないだろう。

私はシビのあたりまで歩いて行って、ゆっくり大物を物色した。二度空襲警報がでた。心細いものである。二十人ほどの人間がみんなそれぞれ慌てゝいる様子が見えるが、私はシビによりそって、シビの材木のフリをするような方法を用いた。アメリカの飛行機に水遁の術がきくかどうか心細い思いであったが、慾念逞しく、尚も海中にふみとどまってハマグリの大物を物色しつゞけたのである。釣り師の心境というものを若干会得したのであった。

大きな袋をかついで帰路につき、疲れ果て、巡査にバスはないかときくと、

「今の日本には、足よりも確かな交通機関はないよ、君」

と、肩をポンとたゝかれたのである。