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すずきもんど

鈴木主水

久生 十蘭

「オール讀物」1951(昭和26)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,827 字 · 26 页

青空文庫

吊り加減の切長な眼のあたりを蒼ずませながら、素っ気ない切口上で、

「お話したいことがございます」

といった。主水は正坐して脊筋を立てると、

「どういう話だ」

と殊更強く聞きかえした。向きあうと、かならずこういう形になる夫婦なのである。主水は狐拳でもしているようだと思うことがある。

「このことは、お聞きにいれない約束になっておりますが、わたし一人の胸にためておけといわれても、重荷なばかりで、気持が鬱してなりませんから、それで、申しあげることにいたしましたのです」

うむ、と主水がうなずいた。

「先夜、お糸さまがおいでになりました」

主水はお安の顔を見た。

「噂には承知しておりましたが、ほんとうにお美しい方でした」

「どういう用向きで」

「舞扇を拾っていただいたお礼に、とおっしゃっていられました」

「礼などを言われる筋は、ないように思うが」

「お糸さまは、あなたに拾ってもらいたいばかりに、あなたの宿直の夜、扇を腰掛へお置きになったのだそうです。お糸さまは三河台の近くにお住いになっていたころから、あなたを慕っていらっしゃって、お忘れになる折もなかったのです。お上のお側に上る決心をなすったのは、もしか、あなたにお逢いできるかと、それだけが望みだったのだといっていられました。