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すずきもんど
鈴木主水
久生 十蘭
「オール讀物」1951(昭和26)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,827 字 · 26 页
終生、拭いようのない悪名を忍んで士道の吟味を貫いた栗山大膳こそ、無類の忠誠の士なりと、大石内蔵之助が賞揚したと聞いたが、そのことを言ったのだと推量した。
主水はなにかしらの存念を胸にひそめているらしい。それは起居振舞やものの言いかたが、この頃なんとなく変ってきたことでもわかる。主水はもう二人の子持ちで、大髻に結っていたころのような水の垂れるような美少年ではない。顔は薄皮立って色が美しく、いまでも目をそばだたせるが、肩幅が張って上背が増し、キッタリとして裃のつきがよくなった。髯のあとが青々とし、口元にゆるみがなく、太く静かな声が、堅く結ばれた唇から口重に洩れてくるところなどは、いかにも沈着な人のように見える。もともとおとなしい性で、圭角のあるようすを見せたことはなかったが、最近は別して柔和になり、挙止動作に丸味が出来、春草が風に靡くようなやさしい立居をするようになった。
主水の存念はどのようなものか、伝内とても奥底まで洞察しているわけではないが、長年、御懇意をねがってきた老臣どもに、いっこうに勘弁がなく、みな身を退いて離散してしまったというのに、主水のような若輩に一分の志がうかがわれるのが、ふしぎなものを見るような気がしてならない。