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てつのきりつ

鉄の規律

平林 初之輔

「新青年 第一二巻第一〇号」1931(昭和6)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,016 字 · 30 页

青空文庫

二百二十四号は起ち上がって、扉のそばへ行って鍵穴から紙片を取って、鍵を入れてまわした。

マスクの巨漢がはいってきた。

「三十号」と彼は機械のように言った。

「二百二十四号」「七十六号」二人は起ち上がって代わる代わる答えた。互いに番号を名乗るのが党員間の挨拶でもあり、合い言葉にもなっていたのだ。

三人は同時に椅子に腰をかけた。三つの頭は互いに三寸位の距離まで集まった。七十六号が、ききとれない程の低い声で何事かを語りだした。三十号は時々うなずいては聞いていた。五六分で報告は終わった。三十号は満足したらしい様子で起ち上がって、挨拶もせずに、帽子をかぶって扉の方へ歩いていった。

「ちょっと」と二百二十四号が呼びとめた。彼は立ち上がってずかずかと三十号のそばへ歩いてゆき、相手の耳にすれすれのところまで口をもっていって二語三語囁いた。三十号はふり返って、じろりと七十六号を見た。がまたくるりと向こうを向いてそのまま出ていった。

あとにのこった二人は石のように黙ったまま時計を見ていた。

五分たつと、七十六号がだまってたち上がって帽子をかぶって出ていった。

それからまた五分たつと二百二十四号もランプを消して出ていった。