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かなづち

鉄鎚

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页

青空文庫

にしている叔父なぞは、オッチョコチョイの木っ葉悪魔ぐらいにしか見えなくなって来た。

……この世には、もっとスバラシイ、偉大な悪魔が実在していないものか知らん……あの叔父のスベスベした脳天へ、鍛冶屋の鉄鎚を天降らせるか何かしたら、私は差し詰め悪魔以上の人間になれる訳だけど、しかし、一方から見ると、それは立派な親孝行にもなるのだから何にもならない。……第一私にはそんな悪魔になり得るだけの力と度胸がないから駄目だ。……ああ悪魔になりたい。そうしたらドンナにか面白いだろうにナア……。

なぞと飛んでもない事を考えたりした。そうかと思うと、あの大東汽船の美人画のポスターを、自分でも知らない間に二階に持って来て暗い壁に貼り付けておいたものを、窓越しに向い合っているような気持ちで飽かず飽かず眺めたり、それを女主人公にして様々の甘ったるいローマンスを描いたり、又は、読んだ小説の中の可憐な少女に当てはめて、同情したりして楽しんだ。

時たま活動を見に行く事もあったが、その時は、隣家の店に居る泊り込みの小使い爺さんに留守を頼んで、表から南京錠をかけて行った。

叔父は着物と弁当以外に、毎月十円宛くれた。