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かなづち
鉄鎚
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页
茫然と血の気を失ったまま、素焼の瀬戸物みたいな表情で私の顔を見た。そうしてブルブルとふるえる手で、その便箋の一枚を掴んで空間を睨みつつ、腰を浮しかけたが、又、ドッカと椅子に腰を下して瞑目一番したと思うと、今度は猛虎のように決然として立ち上って、掴みかかるように私を押し除けると自分自身に電話口へ獅噛みついた。各地の銀行や仲買店を次から次に汗だくだくで呼び出しつつ、資力の続く限り製糖株を買いにまわった。そうして店の者が呆れた眼を瞠っている中をフラフラと取引所へ出て行って、その日の後場でメチャメチャに暴落した製糖株を買って買って買いまくった。人々は叔父を発狂したと云っていたそうである。
けれども、それから中一日置いてあくる日の前場の引け頃になると、取引所の中に一騒動が起った。叔父は寄ってたかって胴上げにされて、這う這うの体で店の中に逃げ込んで来た。そのあとから「万歳万歳」という声が大波のように雪崩れ込んで、店の中から表の往来まで一パイの人になった。私は私でそのさなかに電話口に突立って、八方からかかって来る吉報に転手児舞をしなければならなかった。
「……米国某新聞系大手筋のキューバ糖大買占め……紐育の砂糖が一躍暴騰して、砂糖節約デーの実施運動起る……」