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かなづち

鉄鎚

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页

青空文庫

十一月に入ると間もなく、私は今までにない寒さを感じ始めたので、高価い工賃を払って昼間線を取って、上等の電気炬燵を一個、敷き放しの寝床の中に入れた。そうしてその日は仕事の始末をソコソコにして潜り込んでみるとその暖かくて気持ちのいい事、身体中の血のめぐりがズンズンとよくなるのがわかる位で、私はツイ何もかも忘れてウトウト眠り初めたのであったが、間もなく階下でけたたましく電話のベルが鳴り出したようなので、私は又渋々起き上った。眠い眼をこすりこすり狭い階段をよろめき降りて電話にかかった、

「オーイオーイオーイ……モシモシイ……モシモシイ……わかったよわかったよ。オーイオーイオーイオーイ……」

といくら呼んでも頑強にベルを鳴らしていたが、やがてピタリと震動が止むと、

「オホホホホホホホホ」

という笑い声が、真っ先きに聞えた。

「……あなた愛太郎さん。御無沙汰しました。……叔父さんもう帰って?……」

「エエ……一時間ばかり前に……」

「あなた声が違うようね。お風邪でも召したの……」

「……寝ていたんです……」

「まあ……お昼寝……この寒いのに……」

「……エエ……まあそうです……」