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かなづち
鉄鎚
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页
石甃の上をダブダブと光り漂う湯の上に、膝を組み合わせる程近く引き寄せて、私の首に両の腕を絡ませると、興奮のために、ふるえる唇を、私の耳に近づけた。喘ぐように囁やきはじめた。
「……あたしね……聞いてちょうだい……ずっと前、長崎で西洋人の小間使いになっているうちに、ソッと毒薬の小瓶を盗んでおいたのよ。……可愛らしい瀬戸物の真黒な小瓶よ。それはね……そのラマンさんという和蘭人のお医者の話によると、ジキタリスという草を、何とかいう六ヶしい名前の石と一緒に煮詰めた昔から在る毒薬で、支那人が大切にする『鴆の羽根』と『猫の頭』と『虎の肝臓』と『狼の涎』という四つの毒薬の中で『鴆の羽根』という白い粉と、おんなじものになっているんですってよ。……それをアブサントを台にして作ったコクテールの中に、竹の耳掻きで一パイか二ハイずつ混ぜて服ませると、その人間は間もなく中毒にかかって、いくらでもいくらでも飲みたくなるんですって……アブサントのおかげで青臭いにおいがスッカリ消されている上に、どことなくホロ苦くてトテモ美味しいんですって……だけど一度に沢山飲ませると、すぐに眼や鼻から血を噴き出しながらブッたおれて、十分と経たないうちに死んで終うから駄目なんですってよ……そうして二日目か三日目越しに、竹の耳掻き一と掬いずつ殖やして行って