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ぎんさんじゅうまい
銀三十枚
国枝 史郎
「新青年」1926(大正15)年3月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,863 字 · 73 页
股の見えるほど短かいはずだ。
時々彼女は私へ云った。
「高尚にね。高尚にね。貴郎もどうぞ高尚にね」
で私は腹の中で云った。
「まだこの女は成り切れない。そうさ貴族の夫人にはな! 『高尚にね、高尚にね、どうぞ御前様貴郎様もね、高尚にお成り遊ばしませ!』こう云わなけりゃアイタに付かねえ」
この心配も無用であった。彼女はほんとに翌日から、遊ばせ言葉を使うようになった。
もう贋物には見えなかった。
生れながらのおデコさえ、どうしたものか目立たなくなった。
下手に嵌め込まれた義歯さえ、どうしたものか目立たなくなった。
歯並の立派な誰かの歯と、きっと換えっこしたのだろう。
彼女の身長は高かった。それが一層高く見えた。爪立ち歩く様子もないが。――姿勢のよくなったためだろう。
彼女は毎日美食をした。洋食! 洋食! 油っこい物!
勿論私へも美食を進めた。私はあまり食べなかった。
一日に幾度も衣裳を変えた。しかも正式に変えたのであった。これも貴婦人の習慣であった。
そうして私へもそれを進めた。
私は心でこう叫んだ。
「謀叛人の女が良人を進め、同じ謀叛人にしようとしている! マクベス夫人の心持だ!」