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ぎんさんじゅうまい

銀三十枚

国枝 史郎

「新青年」1926(大正15)年3月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,863 字 · 73 页

青空文庫

プンと葉巻の匂いがした。私はぼんやりと考えていた。

「少しお痩せになりましたね」

こう云う声が聞こえてきた。私はそっちへ顔を向けた。一人の紳士が微笑していた。毛皮の外套を纏っていた。それは佐伯準一郎氏であった。

「これはしばらく」と私は云った。

私は動揺されなかった。ただまじまじと相手を見た。佐伯氏は変わってはいなかった。脂肪質の赧ら顔は、昔ながらに健康そうであった。永い未決の生活などを、経て来た人とは見えなかった。

「ただ今奥様とお逢いして来ました」

相変わらず慇懃の態度で云った。

「今はちょうどその帰りで」

「ああ左様でございますか」

「貴郎この頃お留守だそうで」

「ええ」と私は微笑した。

急に佐伯氏は黙り込んだ。林の方をじっと見た。そっちから人影が現われた。それは逞しい外人であった。

不意に佐伯氏は立ち上った。それからひどく早口に云った。

21

「私は大変急いで居ります。くだくだしい事は申しますまい。いずれ奥様がお話ししましょう。……さて例の銀三十枚、あれを頂戴に上ったのでした。しかし奥様にお目にかかり、私の考えは変わりました。……進呈することに致しました。