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いさん
銀座復興 他三篇
水上 滝太郎
水上滝太郎『銀座復興 他三篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:遺産、果樹、九月一日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,579 字 · 82 页
少しずつ所帯道具を買う楽みも深かった。三田の縁日の晩に、予々欲いと思っていた長火鉢を買った時は、新吉もおときもすっかり興奮して、帰途はお互に話す声も高くなり、人通の少いところでは固く手を握合った。双方から感謝したい感激で胸がいっぱいだった。次の日、新吉が銀行から帰ると、留守の間に届いていた長火鉢に鉄瓶をかけて、おときは赤坊に御湯をつかわせる母親のように、殆んど抱きかかえる形で、大事に大事に布巾をかけていた。
二人にとっての苦手は、お寺の梵妻のしつっこい程口数の多い事だった。六十近い和尚と、先夫の子だという十六七の娘と、たった一人の弟子坊主を意のままに動かしているしっかり者で、自分の目から見れば世間馴ない夫婦を、指導してやろうとする心持が露骨だった。まだよそゆきらしい夫婦仲を、先輩が後輩にのぞむ態度で面白がっていた。
無口で羞しがりのおときは、まるっきり威圧されて、梵妻と顔を合せることを避けよう避けようと努めていた。昼間新吉の留守に、裏の井戸端で洗濯している時などは、向も退屈しきっているので、下駄をつっかけて来ては側でおしゃべりをしていた。和尚は門番の寺男と年中碁を打っているし、娘は女学校に通い、弟子坊主も四角い帽子をかぶって宗教大学に通っているので、梵妻は話相手に飢えていた。