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どうせんかいじへん

銅銭会事変 短編

国枝 史郎

国枝史郎『銅銭会事変 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:銅銭会事変、大鵬のゆくえ、紅白縮緬組、三甚内。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,745 字 · 216 页

青空文庫

泣くな泣くな何を泣きゃあがる」

翌日弓之助は軽装をして、三浦三崎へ出かけて行った。千五百石の安祥旗本、白旗小左衛門の次男であって、その時年齢二十三、神道無意流の大先生戸ヶ崎熊太郎の秘蔵弟子で、まだ皆伝にはなっていなかったが、免許はとうに通り越していた。武骨かというに武骨ではなく、柔弱に見えるほどの優男。そうして風流才子であった。彼は文学が非常に好きで、わけても万葉の和歌を愛した。で今度の三崎行も西行を気取っての歌行脚であった。が、これは表面で、お色と別れた寂しさを、まぎらそうというのが真相であった。途中で悠々一泊し、その翌日三崎へ着いた。半漁半農の三崎の宿は、人情も厚ければ風景もよかった。小松屋というのへ宿まることにした。海に面した旅籠屋であった。

「五、六日ご厄介になりますよ」「へえへえ、有難う存じます」

その翌日から弓之助は、懐中硯と綴り紙を持って、四辺の風景を猟り廻った。

銅銭会茶椀陣

しかしよい歌は出来なかった。別れた女のことばかりが、胸のうちにこだわっていた。もちろん女と別れたことも、彼には随分寂しかったが、その女を取った者が、田沼主殿頭だということが、一層彼には心外であった。