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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(九) 全十冊

野村 胡堂

野村胡堂『銭形平次捕物控(九) 全十冊』。同一底本的分册已合并为一书。收入:銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,029 字 · 82 页

青空文庫

お専の亭主の福之助は、背が高くて色白で、少し鼻声で物を言う男。芸事ならなんでも心得ていそうですが、その代り何をやらしても御飯の足しになるものはなく、お専に生け捕られて朝倉屋に入っても、主人三五兵衛の気に入らなくて、単なる冷飯食いに過ぎない待遇です。それをたいした恥とも思わず、ノラリクラリと暮して、一向平気でいられるのがこの男の取柄でもあったのでしょう。

「福之助さんとか言ったね。昨日の昼前、お前さんは何処にいたんだ」

「ヘエ、自分の部屋におりました。二階の梯子段の下の六畳で、三味線の具合が悪くて、ちょいと弾いておりましたが――」

「昼前だぜ」

「この辺は立止って三味線を聴いてくれる人もありません」

どうも少しピントが外れそうな人柄です。

「坊っちゃんと、お前さんは、仲が好かったのかな」

「どうも、竜吉は学問の方に凝っているし、私は遊芸の方が好きなので、あまり仲が好いとは申兼ねましたが」

「内儀さんは?」

平次は振り返って、女房のお専に訊ねました。

「姉弟ですもの、良いも悪いもありゃしません」

そう言って無用に品を作るお専の方は、亭主の福之助よりいくらか人間が賢こそうでもあります。