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かぎ
鍵
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页
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二時頃、玄関に「御免下さい」という声がして見知らぬ男がはいって来た。石塚治療院から参りましたと云う。指壓の治療師だそうである。誰もそんな者を頼んだ覚えはないはずだがと思っていると、婆やが出て来て「旦那様が呼んでくれとおっしゃいましたので、私が頼みました」と云う。おかしなこともあるものである。夫は昔から見知らぬ人間に足腰を揉ませたりすることが嫌いなたちで、今まで按摩やマッサージの類に体を触らせたことはないのである。婆やに聞くと、この間から旦那様が肩が凝ってたまらない、首が廻らないくらいだとおっしゃっていらっしゃいましたので、非常に上手な指壓の先生がいるのですが、だと思って試してごらんになりませんか、それはそれは不思議なくらい、一度か二度で忘れたように直りますと云って、熱心にお勧めしておいた、そうしたらよほどおつらいのだとみえて、ではその人を頼んでほしいとおっしゃいましたので、と云う。五十恰好の、あまり人相のよくない、痩せた、黒眼鏡を掛けた男である。盲人かと思ったがそうでもないらしい。私がうっかり「按摩さん」と呼んだら、婆やが慌てて「按摩さんと云うと怒るのです、先生と呼んで上げて下さい」