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かぎ

鍵

谷崎 潤一郎

「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页

青空文庫

たのであった。(変更する場所をどこにしたらよいかについては、すぐには思い当らなかったので、私は一とまず日記帳を以前の場所に収めておいて、その時は二階を下りた。そしてその夜、敏子や婆やが去るのを待って、小池さんが寝に行く少し前に取りに上り、それをふところに入れて下りて来た。そのすぐあとで小池さんが上って行った。私はまだその時も適当な隠し場所を考えつかないで困っていた。今夜じゅうに考えつけばよいのであるが、已むを得なければ茶の間の押入の天井板を一枚剥がして、その上に※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)し込むことにしようか、などと思案していた)で、五月二日の午前二時過ぎ、茶の間にはいって懐中していた帳面を取り出し、四月三十日の夕刻以後の出来事を記していると、ふと、つい先刻まで聞えていた病人の鼾ごえが、いつからか聞えなくなっているのに心づいた。病室と茶の間とは壁一と重しか隔たっていないのであるが、私は書く方に気を取られていたので、それまで知らずにいたのである。私は、「………今日から私は、昼寝の時間に二階で書くことを止めにする。