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かぎ
鍵
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页
私もブランデーの加減で少し常軌を逸していたので、フラフラと要求に応じた。それはよいが、接吻するついでに、あの見てはならないものを、――彼の眼鏡を外した顔を、ついウッカリして見てしまった。私はいつも眼瞼に接吻を与える時は、自分も眼をつぶるようにしているのだが、昨夜は途中で眼を開けてしまった。あのアルミニュームのような皮膚が、キネマスコープで大映しにして見るように巨大に私の眼の前に立ち塞がった。私はゾウッと身慄いをした。そして自分の顔が急に青ざめたのを感じた。でもよいあんばいに、夫は眼鏡をすぐにかけた、例によって私の手足を事細かに眺めるために。………私は黙って枕もとのスタンドを消した。夫は手を伸ばしてスイッチをひねり返そうとしたが、私はスタンドを遠くの方へ押しやった。「おい、後生だ、もう一度見せてくれ。後生お願い。………」と、夫は暗い中でスタンドを探ったが、見つからないので諦めてしまった。………久しぶりの長い抱擁。………
私は夫を半分は激しく嫌い、半分は激しく愛している。私は夫とほんとうは性が合わないのだけれども、だからといって他の人を愛する気にはなれない。