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かぎ
鍵
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页
夫婦生活を始めてから二十何年間、夫は何とつまらない、およそこれとは似ても似つかない、生ぬるい、煮えきらない、後味の悪いものを私に味あわせていたことだろう。今にして思えばあんなものは真の性交ではなかったのだ。これがほんとのものだったのだ。木村さんが私にこれを教えてくれたのだ。………私はそう思う一方、それがほんとうは一部分夢であることも分っていた。私を抱擁している男は木村さんのように見えるけれども、それは夢の中でそう感じているので、実はこの男は夫なのだということ、―――夫に抱かれながら、それを木村さんと感じているのだということ、―――それも私には分っていた。多分夫は、一昨日私を風呂場からここへ運び込んで寝かしつけておいてから、私が意識を失っているのをよいことにして私の体をいろいろと弄んだに違いない。私は彼があまり猛烈に腋の下を吸いつづけるので、ハッとして或る一瞬間意識を回復した時があった。―――彼がその動作に熱中し過ぎて掛けていた眼鏡を落したのが、私の脇腹の上に落ちてヒヤリとしたので、とたんに私は眼を覚ましたのだった。―――私は体じゅうの衣類を全部キレイに剥ぎ取られ、一絲も纏わぬ姿にされて仰向けに臥かされ、フローアスタンドと、枕元の螢光燈のスタンドとが青白い圏を描いている中に曝されていた。