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かぎ
鍵
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页
私は夫の日記帳を急いでさっと開けてみて、厚みがどのくらいに達したかを測る。それももちろん好奇心からである。私は眼をもって、夫のあの非常に線の細い、神経質なペン字が性急に走っているページ面を、蟻が這うのを見るように見るだけですぐページを伏せる。が、今日はページ面に何か猥褻な写真らしいものが何枚も貼ってあるのに気がついた。私は慌てて眼を閉じ、いつもより一層急いでページを伏せた。一体あれは何だったのだろう。あんな写真をどこから持って来、何の目的で貼ったのだろう。………私に見せるのが目的なのではあるまいか。あの写真に写されている人物は誰なのだろう。突然私に、或るはなはだ厭わしい想像が浮かんだ。この間じゅう、夜中私は夢の中で、時々室内がにわかにパッと明るくなったような感じを抱いたことが一二度あった。当時私は、誰かがフラッシュを用いて私を撮影しつつあるような幻影を見ているのだと思っていた。その「誰か」は、夫であるような気もしたし、木村さんであるような気もしたこともあった。しかし今考えると、あれは夢や幻影ではなかったのかも知れない。事実は夫が―――まさか木村さんであるはずはない、―――私を写していたのかも知れない。