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かぎ

鍵

谷崎 潤一郎

「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页

青空文庫

ママはそうは感じていない」と、私は云ってやった。「パパはママを今も熱愛しているのである。パパはママの肉体が年齢のわりに若くて美しいことを、誰か自分以外の男性に見せて確かめたい気持があったのだと思う。その気持は少し病的かも知れないけれども、私には分る」―――私は夫を擁護する必要を感じたので、云いにくいことをかなり上手に、巧く云ったつもりである。私の日記を盗み読みするに違いない夫は、ここを読んで私がどんなに夫を庇うために苦心したかを察してくれてもよいと思う。「でもそれだけの気持かしら。パパは木村さんがママをどう思っているか知っていながら、随分意地が悪いのね」と敏子は云った。私はそれには答えなかった。敏子は木村さんがあの写真をあの本の間に挟んでおいたのは、「木村さんのすることだから」ただの不注意とは思えない、何か訳があるような気がする、敏子に何かの役目を負わせるつもりかも知れないと云い、木村さんに対する彼女の観察をいろいろ述べるところがあったが、それはここに書かない方が夫のためによいと思う。………

三月十八日。………佐々木ノ帰朝祝賀宴ガアッタノデ十時過ギニ帰宅シタ。