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かがみのなかのつき

鏡の中の月

宮本 百合子

「若草」1937(昭和12)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,290 字 · 15 页

青空文庫

「あなたの聰明さや優しさは既に村でも定評があるんですから、僭越のようだが、却ってこういう僕のやりかたに真実を認めて頂けると信じているんです」

瀧子は栗色っぽい柔かい髪がひとりでに波を打っている色白な額ぎわを素直に傾け、遠くはなれて坐りながら、山口の云うことを聴いていた。前の妻をヒステリーで離婚したというのや子供が二人あるという条件をも、瀧子は別に初婚である自分に対しての屈辱という工合にはとらなかった。瀧子が二十七までひとりでいたには、格別の識見があってのことではなかった。彼女の人がらが誰にも好意をもたれるにつれ縁談はこれまでいくつかあった。しかし、それはどれも地方らしく所謂仲人の話で、感情のおだやかな、淋しがりでもなかった瀧子に特別の好奇心も起させなかったままに過ぎて来ていたのであった。

山口が、よかれあしかれ仲介のひとの話では心持がそのまま伝えられないからと、自分から出向いて来た、そのことはなんとなく瀧子にこれまでの話とは異った一抹の新鮮さを感じさせるのである。

溝口さんにも相談してと言って山口をかえしたあと、瀧子は土間で湯をわかし、髪を洗った。