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かがみじごく

鏡地獄

江戸川 乱歩

「大衆文芸」1926(大正15)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,074 字 · 27 页

青空文庫

その不完全極まるものでさえ、私にはどのように恐ろしく感じられたことでしょう。それを知っているものですから、一度彼から鏡の部屋へはいれと勧められた時にも、私は固く拒んで、はいろうとはしませんでした。

そのうちに、鏡の部屋へはいるのは、彼一人だけではないことがわかってきました。その彼のほかの人間というのは、彼のお気に入りの小間使いでもあり、同時に彼の恋人でもあったところの、当時十八歳の美しい娘でした。彼は口癖のように、

「あの子のたったひとつの取柄は、からだじゅうに数限りもなく、非常に深い濃やかな陰影があることだ。色艶も悪くはないし、肌も濃やかだし、肉付きも海獣のように弾力に富んではいるが、そのどれにもまして、あの女の美しさは、陰影の深さにある」

といっていた。その娘と一緒に、彼の鏡の国に遊ぶのです。しめきった実験室の中の、それをまた区ぎった鏡の部屋の中ですから、外部からうかがうべくもありませんが、時としては一時間以上も、彼らはそこにとじこもっているという噂を聞きました。むろん彼が一人きりの場合もたびたびあるのですが、ある時などは、鏡の部屋へはいったまま、あまりにも長いあいだ物音ひとつしないので、召使いが心配のあまりドアを叩いたといいます。