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かがみもち

鏡餅

宮本 百合子

「新潮」1934(昭和9)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,163 字 · 15 页

青空文庫

もっている風呂敷包みを椅子の逆さにのっているテーブルの端に置いた。

「――本庁へきいて下さい。こっちでやったことじゃないんだからね。こっちじゃ分らないから――行きましたか」

「こっちできいて駄目だと云うとき、私の方でヤイヤイ云ってもききめがないと思うんです……もう五日も経つんだからいいんじゃないかしら――着物ですからね、口を利くわけじゃないし……」

すると、わきから黒チョッキの男が、

「誰へ差入れたいんです?」

ときいた。

「石崎です」

「本庁へききなさい、本庁がやっていることで、こっちじゃわかりませんよ」

急にパタパタ、サエの髪の近くでハタキをかけはじめた。夫の石崎が検束されたことを新聞でサエがはじめて知ったのは四日前の夜であった。直ぐその晩行ったが突きかえされ、翌日も突きかえされこれで三度目なのであった。

「じゃ、ちょっと待って下さい」

主任が出て行った。あとの連中は盛に大掃除をはじめ、

「ヤ、御免」

とか、

「ごみがかかるよ」

とか、コートを着てそこに立っているサエのまわりをわざと邪魔そうにまわった。

主任は間もなく帰って来て、

「どうして、なかなかそれどころじゃないということだから、私の方では何とも出来ない」