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かがみもち
鏡餅
宮本 百合子
「新潮」1934(昭和9)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,163 字 · 15 页
「どうしたかね、差入れ、受けつけた?」
ときいた。
「まだまだそれどころじゃないってさ」
サエは立ったまま襟巻とコートを古風な箪笥の前へぬぎ、火鉢のそばへわりこみながら答えた。
「――五日ぐらいすりゃ、大抵いいもんだがな」
洋服の背中を窓際によせかけ、立てた両膝を抱えた進がゆっくり云った。
「――正月は休むからね……その調子だと七日ぐらいまで駄目かも知れないね」
佐太郎は組合の関係でやられ、今は病気で保釈中なのであった。
「おまささんは?」
「正月の御馳走を買いに行ったよ。――予定よりあまして帰れば、それで俺が散髪に行けるんだがな」
皆して喋っているうちに、サエは丸い顔をしかめ足袋の踵を片手でおさえながら、
「あんたのところにメンソレない?」
と云った。
「どうしたんだね」
「あかぎれがポッポして……」
サエは体をねじって片足だけ足袋をぬぎ、踵のあかぎれへ丁寧にメンソレータムをぬりこんだ。頬などの色艶はいいサエの顔にあわせ、そのあかぎれは大きくて、痛々しかった。
サワ子が、それを見て、
「あれ」
と羽織の袖口で口のはたを被うような恰好をした。
「どうしてまたそんなになるんだろ……」