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ながしまのし

長島の死

坂口 安吾

「紀元」1934(昭和9)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,277 字 · 11 页

青空文庫

全てはそれよりもより悲惨な性格の中にあったのである。のみならず、悲劇的という言葉はただ彼にのみ当てはまるのであって、私自身は事彼に関する限り永遠に帝王の如く完き無神経をもつに止まるという宿命のもとにあったのである。

彼の宿命的な不幸は、更に彼の病弱の中にもあった。春の訪れる度に狂的な精神状態になるということである。つまり、彼の感受性はとぎすましたように鋭敏なるにも拘らず、逆に表現の能力を阻碍されるという悲劇的な一事である。これは生理的に如何ともなしがたい事柄であったのだろう。

彼は恐ろしく鋭敏な、頭のいい男であった。ことに語学には天才であった。私と一緒にラテン語を習いだしたのであるが、私が辞書をひくにも苦労している頃に、彼は已に原書を相当楽に読みこなしていた。その当時は私も語学には全力を打ち込んでいた頃で、別に怠けてもいなかったのであるが。

さりとて、彼はディレッタントと呼ぶべき人間でもない。彼の生活はディレッタント風の女性的なものではなく、あまりに凄惨で生ま生ましかった。併し、ディレッタント式の宿命的な眼高手低は、生理的にどうすることもできなかったのである。