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ながさきのいちべつ

長崎の一瞥

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,773 字 · 14 页

青空文庫

終点から川について教わった通り行ったが、二股道にかかり、さてどちらに行ってよいか判らない。丁度十五六の女の子が通りすがった。

「天主堂へはどっちの道を行ってよいでしょう」

此辺の人と見かけたのに、分らぬらしく

「さあ、わたくし知りませんが」

Y、問答をきいて居て、註釈を加えた。

「御堂ですよ」

「ああ御堂!」

すっかり笑い乍ら、近路を行く。暫くすると右手の高台に、まだ新しく、壮大な堂が見えて来た。この堂の建設のために、信徒は三十年も応分の寄附を怠らず、或者は子を大工や左官に仕立ててその技を献納したということだ。ゆるやかな坂をのぼった処で、黒服、鍔広帽の外国宣教師が、村の子とふざけて居る。日本人の尼僧がつれ立って、礼拝堂から出て来た。大浦の天主堂を見た眼では、明るく出来立てで大きく、どこかに東本願寺というような感がしなくもない。

内部も規模大で、祭壇の左右に合唱壇もついて居、堂々としたものだ。ここで、信徒は皆床に坐ると見え、腰掛は一脚もない。大浦の祭壇や聖像は生花の束で飾られて居たが、この宏い大聖壇を埋めるに充分な花は得難いと見え、厚紙細工の棕櫚らしいものが、大花瓶に立ててある。