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ながさきのいちべつ

長崎の一瞥

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,773 字 · 14 页

青空文庫

二人、四つ五つ離れた各々の卓子から会話を始めた。純益何割、保険金何割、何弗、何弗の話。……暇すぎる年寄の給仕が、時々ナプキンを振って蠅を追って居る。

――いかにも物懶さと云い、何処やら地から生え抜き日本離れのした雰囲気と云い、面白いのだが、私共は或虫、その他心配で迚も泊る気にはなれなかった。私は旅館の相談旁々、紹介を得て来た図書館長の永山氏に電話をかけた。私、早口になると見え、電話がてきぱき相手に通じない。困難し、打ち合わせなどするうちに、後の廊下で、一人の老人が丹念に人造真珠の頸飾や、古本や鼈甲細工等下手に見栄えなく並べ始めた。

一眠りしたら、大分元気が恢復した。福島屋の其部屋から、遙に港内が瞰下せた。塗り更えに碇泊して居るらしい大きい二隻の汽船の赤い腹の周囲を、小蒸汽が小波立てて往来する。夕飯前の一散歩に、地図携帯で私共は宿を出た。彼此五時頃であったろうか。

雨あがりだから、おっとりした関西風の町並、名物の甃道は殊更歩くに快い。樟の若葉が丁度あざやかに市の山手一帯を包んで居る時候で、支那風の石橋を渡り、寂びた石段道を緑の裡へ登りつめてゆく心持。