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かっか
閣下
佐々木 邦
「面白倶楽部」1925(大正14)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,494 字 · 16 页
と奥さんは事実の説明に努めた。
「おしるこですか? おしることは又妙な御所望ですな」
「いゝえ、この間懐中じるこをお見舞いに戴いたのでございます。そのことを小耳に※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)みまして、あの通り駄々をこねます。まるで子供のようですわ」
「閣下、チブスの後は食物が一番お大切ですぞ。もう少時の御辛抱です。遣り損ねると命ものですからな」
と私は諫めた。
「小林さんは珍客だが、この際は何うも仕方がない。お柳や、それじゃ小林さんにおしるこを御馳走して、皆もお相伴をするが宜い。我輩は遠方から見物して自ら慰めることにしよう」
「閣下、私はもう結構です」
「いや、我輩を助けてくれ給え。もうこの間から毎日註文しているんです。食べると言うなら、成程それは無法に相違ないが、我輩は理性の人として、皆の甘そうに食べるのを見て満足したいと思うのです」
と閣下は尚お理窟を言って、何処までも主張を貫こうと期した。
実際数日来の註文だったし殊に食べないと譲歩しているから、奥さんも竟に我を折って、懐中じるこを利用した。私はチブスの病室で物を食べるのは厭だったけれど、大地震以来の交誼もだし難く、皆と一緒に一杯頂戴した。