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かっか
閣下
佐々木 邦
「面白倶楽部」1925(大正14)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,494 字 · 16 页
それは理性の人として交際の為めに時折度を過すことがないではないが、独りで晩酌を楽しむことはしない。客が来なければ絶対に飲まないのを家憲としています。水谷君も小林さんも何んなものですかな?」
「閣下は寧ろ三百代言になられた方が適任でございましたろうな」
と私が茶化すと、
「厳しくお出なさいましたな。水谷君、三百は何ぼ何でも酷いですな?」
「いゝや、私も同感であります」
と水谷君は真面目に答えた。
こんな具合で閣下と私達は夜警中に別懇な間柄になった。世間の秩序が回復して夜警の必要がなくなった頃、私は閣下の家へ能く碁を打ちに出掛けた。閣下も足繁く攻めて来た。それというのが、震災は私の勤めていた会社を焼き払ったばかりでなく真正に揺り潰してしまって、私も一時閑散な身体になっていたのだった。
或日のこと、私は昼から夕方まで対局して、暇を告げようとすると、閣下は、
「小林さん、何もありませんが、今日は食事をしてお帰り下さい」
と言って引き止めた。
「いや、つい目と鼻の間ですから帰って又夜分出直しましょう」
と私は先方が負けた口惜しさで未だ打ちたいのだろうと諒察した。
「いや、碁は何うでも宜いのですが、この頃は珍客が一向見えないんで、大分油が切れていますから」