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とうそう

闘争

小酒井 不木

「新青年」1929(昭和4)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,079 字 · 38 页

青空文庫

更にその学説に至っては全然相反の立場にあった。毛利先生はドイツ派を受ついで居られたのに、狩尾博士はイギリス、フランス派を受ついで居た。もとより晩年には二人とも、外国にも匹儔を見ないほどのユニックな学者となって居て、毛利先生は、先生の所謂「脳質学派」を代表し、狩尾博士は博士の所謂「体液学派」を代表して居た。脳質学派とは人間の精神状態を脳質によって説明するのに反し、体液学派は、体液ことに内分泌液によって説明するのである。

狩尾博士の体液学派は、内分泌派又は体質派ともよばれるのであって、狩尾博士の主張するところによれば、すべての精神異常は体質によって定まるものであって、而も体質なるものは目下のところ人力で之を如何ともすることが出来ない。例えば殺人者たる体質を有するものは、必ずある時期の間に殺人を行う。故にその時期に入ったことを観察することが出来たならば、僅かの暗示的刺戟によっても殺人を行わせることが出来るというのである。即ち、一見精神健全と思われる人にも、体質の如何によって恐ろしい犯罪を敢てせしめ得るのだというのであって、その刺戟を狩尾博士は、これまでの suggestion と混同されないように incendiarism と名づけたのである。