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とうそう

闘争

小酒井 不木

「新青年」1929(昭和4)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,079 字 · 38 页

青空文庫

「はあ。以前に読んだことがありましたけれど……」と、僕がしどもどしながら答えると、先生は遮って、

「無理もない。今どきニーチェなどを語るのは物笑いの種かも知れぬが、若しそれが天才の仕事であるならば、たとい非人道的であっても、君は許す気にはならぬかね」

「さあ、そうですね……」

「いきなり、こう言っては君も返答に迷うであろうが、近頃はよく民衆の力ということが叫ばれて居るけれど、少くとも科学の領域に於ては、幾万の平凡人も、一人の天才に及ばぬことを君は認めるであろう」

「認めます」

「そうして、科学なるものが、人間の福利を増進するものである以上、科学的天才の仕事が非人道的であっても、君はそれを許す気にならないか」

誠に大問題である。

「もっとよく考えて見なくてはわかりませんが……」

「その肯定が出来なくては、君に先刻の約束どおり、説明を行うことが出来ぬ」

それでは大変だ。是非、北沢事件の解決をきかねばならぬ。

「許してもよいような気がします」

「よし、そんなら説明に取りかゝろう」と、案外先生は楽に話しかけて下さった。「ゆうべ僕は、この二枚の紙片をにらんで、とうとう徹夜してしまった。