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とうそう
闘争
小酒井 不木
「新青年」1929(昭和4)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,079 字 · 38 页
というと、察し深い君は、あの事件がやはり他殺だったのかと思うであろう。そうだ。思い切って言えば、やはり一種の他殺だったのだ。が、それはたしかに普通の場合とは異って居るので、それがあの謎の広告となったのだが、とに角、こういう訳で、毛利先生の憂鬱の原因は、間接に北沢事件だとも言い得るのだ。
尤もそれは先生の死の直前の極度の憂鬱のことをいうのであって、すでにその以前から、毛利先生は憂鬱だったのだ。僕はちょうど五年間先生に師事したが、最初の四年間先生は文字通り快活で、疲労というものを少しも知らぬ学者だった。五十を越した人と思われぬ黒い髪と、広い額と窪んだ眼と、かたく結んだ唇とは、見るからに聡明な性質を表わして居たが、ことに先生が、法医学的の、又は精神病学的の鑑定を行われる態度は、襟を正しくせずに居られぬほど厳粛なものだった。それもその筈だ。先生の鑑定の結果は、単に一個人の生命に関係するばかりでなく、社会にも重大な影響を与えるから、いわば人智の限りを尽して携わられたのである。而も、そうした義務的観念から熱心であったばかりでなく、心からの興味をもって従事されたのである。