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とうぎゅう
闘牛
国枝 史郎
「新趣味」1922(大正11)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,976 字 · 20 页
そして自分が先に立って後庭の方へ歩いて行った。
やがて二人は後庭へ来たが、成程宮相の云った通り警手が無数に集まっている。
庭は殆ど暗らかった。庭の三方を取り巻いて高い煉瓦塀が立っている。そして残った一方の口は宮殿の廊下に通じている。逃げ出す隙など何処にも無い。
牛舎は中央に出来ていた。仲々立派な建物で、牛の住家とは思われない。牛舎の中も暗らかった。暗い建物のその中に、象とも見紛う巨大な獣、即闘牛が一匹いた。
ラシイヌは悠々と歩き乍らその闘牛に近づいた。
「あまり近寄ると危険だぞ。虎よりも強い猛牛だからの」
老宮相は、ラシイヌの後から、斯うラシイヌに囁いた。ラシイヌは頷きはしたけれど、用心しようとはしなかった。彼はずんずん近寄って牛舎の中へ這入り込んだ。
「あぶないあぶない!」と警手達は、それを見て一様に叫び出した。
近寄るラシイヌを見付けるや否や、猛牛は一旦首を上げたが次の瞬間には角を下げて鋭くラシイヌに突きかかった。宮内大臣は手に汗を握り、警手達は又も絶叫した。
「早くお逃げなさい早くお逃げなさい!」
しかし当人のラシイヌは素早く左へ身を反わした。そうして置いて周章もせず牛舎を一踊りで踊り出た。