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あなんとじゅじゅつしのむすめ
阿難と呪術師の娘
岡本 かの子
「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页
自分の情を張り切る力は御座いませぬ。どうか阿難さまを許して上げて下さい。
老女 ――馬鹿な事を。呪術の誓いは縒りを戻すことは出来ないのだ。たって一人を許すにした処で、他の一人は誓い通り行うのが呪術の法だ。阿難を許せば、お前は一人で呪いを受けねばならないのだぞ。
娘 ――わたしは石になと青銅になとなります。ですからどうぞ、阿難さまは逃がして上げて下さい。
阿難 ――(同じく弱れる声にて)いや、娘さん。わたしはもう覚悟を極めて居る。どうせ仏果に拙く生れついた身の上、石になりと青銅になりとなり、この身、この因果を思い捨てます。あなたはあくまで生き延びなさい。だがこれに懲りて必ず二度と男を恋うるような事はなさるなよ。
娘 ――そのお言葉を聞くにつけ、いよいよあなたがおいたわしゅう存じます。どうぞわたくしを呪いの犠牲にして下さいまし。
阿難 ――いやわたしが呪いの犠牲になります。
老女 ――相変らずつべこべとうるさい奴等だ。一体どうなのだ、早くしろ。
阿難 ――(少し考えて居たが、やがて屹と顔を上げて、語気も強まり)娘さん!
娘 ――はい。
阿難 ――わたしはどうやら、女の真ごころというものが分りかけて来たような気がする。