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あなんとじゅじゅつしのむすめ

阿難と呪術師の娘

岡本 かの子

「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页

青空文庫

師は今日私に餅の施行を命ぜられて、議論を応けよとは命ぜられませんでした。

論師 ――それは法に不忠実と云うものだ。法の討論より餅の方が大事というのか。

阿難 ――何と仰しゃっても議論のお答えは致しかねます。餅なら差上げますが。

論師 ――それじゃ餅をもらってやろう。餅を呉れ、餅を。だが其れには少し注文がある。餅を手を使わずによこせ。そしたら受取ってやろう。

阿難 ――はい。(と手でつまんで差し出す。)

論師 ――無手ではない、手を使って居るではないか。

阿難 ――まだそんな事を仰しゃるのですか。少しくどいですね。一体饑えた人間に同情して餅を与える心、それは切実なもので水が高い所より低い所へ就くのと同じ必然である筈です。その心持ちには、やれ手を使って与えようとか手を使わずに与えようとかそんなまだるい考えの這入る余地は無い筈です。もしそう云う考えの加わった施行なら人間の真情がみだされた施行で、施す人も施される人も共に穢すというものです。真率であるべき人生の行為を、戯論で手遊にするというものです。お控え下さい。わたくしが只今こう差し出した餅を握った手、この手に哲学だとか論理だとかそんな余裕の心持が見出せますか。