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あなんとじゅじゅつしのむすめ

阿難と呪術師の娘

岡本 かの子

「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页

青空文庫

裏切られるの、冷めるのという恐れは少しも要りません。永劫のむかしより無窮の未来へ向けて流れる光の河に身を浸しあなたさまと同じ息づかいで、生命の虹を吸うので御座います。褪せる事なき無飾の花冠を頭に戴き、破れる事なき無縫の晴着を身につけて、私はいつまでもあなたさまの花嫁で居られるので御座います。世尊は聖なる花嫁であれと仰せられました。おお、聖なる花嫁! 生老病死の恐れなく、いつも生れたての赤児のように新らしくある聖なる花嫁! 何と私の身の匂わしき事よ! そしてなお悦ばしいことは、この世界で私は愛する母も諸共に、あなたさまと一体になれるので御座います。邪でも愛の深い母では御座いましたが、私はこの事を死んだ母に告げてやれませんのがたった一つの心残りで御座います。

(日は八分通り暮れ、園の奥や、墻壁の腰に薄墨を溶かしたような闇がたゆたう。樹木の梢と空にだけ金色の残光が淡く照り栄えて居る。今迄、耳を澄まして摩登伽尼の述懐を聞いて居た阿難は、この時更に言葉を語り継ごうとする摩登伽尼を手にて制し云う。)

阿難 ――しばらくお静まりなされ、摩登伽尼。あなたの母御さまが今茲にお見えになりますぞ。