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あなんとじゅじゅつしのむすめ

阿難と呪術師の娘

岡本 かの子

「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页

青空文庫

彼が栴陀羅の娘に慕われ、娘の母親の呪術に引寄せられたのは経典の通りである。彼は其処で直に身の危険を感じ、釈尊を念じた。釈尊は精神作用を働かして彼を無事に祇園精舎へ連れ戻った。

翌日舎衛城内へ行った阿難はまた娘によって待ち設けられたのである。彼は娘に追慕されたまま精舎へ帰った。彼は娘のことを釈尊に訴えた。釈尊は娘を諭して出家せしめた。娘が道に対して始めて尊敬の念を起したのを釈尊が褒め給うと娘の鬢髪はたちどころに落ちたと経典には書いてある。娘が証悟――まだあまり高くない――を得たのも即座である。

阿難が真の証悟を得たのは、釈尊入寂後経典結集近くであるらしい。この点も私の戯曲に於ては甚だ急いで取扱って仕舞った。しかしこの劇の目的とする処は、恋愛の浄化過程の研究である。『愛によって躓くものはまた愛によって立上らせられる。』この釈尊の大乗仏教的の一句を眼目としたものである。阿難と娘の心歴や事蹟は、可成りこの目的の為め、私の芸術上の功利的所置の犠牲となって居る。二人の為に一言弁明して置く。

劇を右の目的に運んで行く思想としては、法華、華厳、般若経等取交えられて居る。