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いんじゅうそのた
「陰獣」その他
平林 初之輔
「新青年 第九巻第一三号」1928(昭和3)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,188 字 · 9 页
そしてついに静子に自殺をさせた。私は静子が自殺をするのすら既に悪どいと思う。ところが作者はさらにそれだけではあきたらないで、もう一度静子が犯人であるということに疑いをはさみ、いちど抹殺して架空の人物としてしまった大江春泥をひっぱり出してこれに濃厚な嫌疑を向けている。これは読者にとって非常に迷惑である。積極的に言えば不快ですらある。せっかく、果物を食って珈琲をのんでしまった読者の舌の上へ、しつこい豚料理か何かを出して、後味をのこさせるようなものである。
私は特に、この作だけについて言うのではない。この作だけがそうであるなら、特殊な場合として面白い趣向だと思う。だが、江戸川氏の近年の作品には、すべてに、これと同一の趣向が共通していると思う。それは飽くまで読者の想像力を屈服せしめて作者が凱歌をあげてはやまぬというしつこさ、用心深さのためではないかと私は思う。絶対に読者の追随を許すまいとする作者の頑強な自負心のあらわれではないかと思う。だが、飽くまでもこういう意図をもって探偵小説が構成されるなら、探偵小説はついに成立しないかもしれぬ。ただ一枚の切り札以外の札はすっかり次々に開放していって、読者とともに、事件を探索してゆくのが、探偵小説として余裕のある構成法ではあるまいか。