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いんえいらいさん

陰翳礼讃

谷崎 潤一郎

「経済往来」1933(昭和8)年12月号、1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 页

青空文庫

ガラスでさえも、支那人の手に成った乾隆グラスと云うものは、ガラスと云うよりも玉か瑪瑙に近いではないか。玻璃を製造する術は早くから東洋にも知られていながら、それが西洋のように発達せずに終り、陶器の方が進歩したのは、よほどわれ/\の国民性に関係する所があるに違いない。われ/\は一概に光るものが嫌いと云う訳ではないが、浅く冴えたものよりも、沈んだ翳りのあるものを好む。それは天然の石であろうと、人工の器物であろうと、必ず時代のつやを連想させるような、濁りを帯びた光りなのである。尤も時代のつやなどと云うとよく聞えるが、実を云えば手垢の光りである。支那に「手沢」と云う言葉があり、日本に「なれ」と云う言葉があるのは、長い年月の間に、人の手が触って、一つ所をつる/\撫でているうちに、自然と脂が沁み込んで来るようになる、そのつやを云うのだろうから、云い換えれば手垢に違いない。して見れば、「風流は寒きもの」であると同時に、「むさきものなり」と云う警句も成り立つ。とにかくわれ/\の喜ぶ「雅致」と云うものの中には幾分の不潔、かつ非衛生的分子があることは否まれない。西洋人は垢を根こそぎ発き立てて取り除こうとするのに反し、東洋人はそれを大切に保存して、そのまゝ美化する、と、まあ負け惜しみを云えば云うところだが、因果なことに、われ/