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いんえいらいさん

陰翳礼讃

谷崎 潤一郎

「経済往来」1933(昭和8)年12月号、1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 页

青空文庫

能楽においても女の役は面を附けるので実際には遠いものであるが、さればとて歌舞伎劇の女形を見ても実感は湧かない。これは偏えに歌舞伎の舞台が明る過ぎるせいであって、近代的照明の設備のなかった時代、蝋燭やカンテラで纔かに照らしていた時代の歌舞伎劇は、その時分の女形は、或はもう少し実際に近かったのではないであろうか。それにつけても、近代の歌舞伎劇に昔のような女らしい女形が現れないと云われるのは、必ずしも俳優の素質や容貌のためではあるまい。昔の女形でも今日のような明煌々たる舞台に立たせれば、男性的なトゲトゲしい線が眼立つに違いないのが、昔は暗さがそれを適当に蔽い隠してくれたのではないか。私は晩年の梅幸のお軽を見て、このことを痛切に感じた。そして歌舞伎劇の美を亡ぼすものは、無用に過剰なる照明にあると思った。大阪の通人に聞いた話に、文楽の人形浄瑠璃では明治になってからも久しくランプを使っていたものだが、その時分の方が今より遙かに餘情に富んでいたと云う。私は現在でも歌舞伎の女形よりはあの人形の方に餘計実感を覚えるのであるが、なるほどあれが薄暗いランプで照らされていたならば、人形に特有な固い線も消え、てら/\した胡粉のつやもぼかされて、どんなにか柔かみがあったであろうと、その頃の舞台の凄いような美しさを空想して、そゞろに